浅木原忍


作品タイトル「英雄の記憶」
登場艦娘:白雪・敷波
司令官名:木村昌福少将(海兵四一期 第三水雷戦隊司令官)


 作戦を終えて帰投した鎮守府では、夜になるとそれぞれ、気の合う者同士で集まっての飲み会が始まる。酒の飲めない駆逐艦は主に間宮で、軽巡以上は居酒屋鳳翔やバーで。料理目当てであったり、あるいは旗艦に呼ばれて鳳翔に行く駆逐艦も多い。
「じゃ、今回の作戦の成功を祝して、かんぱーい!」
 居酒屋鳳翔の一角。旗艦を務めた鈴谷が音頭を取り、グラスが打ち鳴らされる。その中で敷波も、ジュースの注がれたグラスを、隣の白雪と打ち鳴らした。
 普段は第十九駆逐隊で綾波や磯波と行動を共にしている敷波だが、今回は入渠明けでその間に綾波と磯波が別の作戦に出払っており、同様に十一駆に置いて行かれた白雪とともに、最上型四隻からなる第七戦隊の護衛を務めることになったのだった。
「無事に終わって何よりですわ。帰りがけに敵の水雷戦隊と遭遇したときはびっくりしてしまいましたけれど。ねえモガミン」
「びっくりしたのは僕の方だよ!」
 三隈に衝突されそうになった最上が口を尖らせ、「貴方たちは常に気をつけないと、衝突する運命にあるんですから」と熊野がひとりワイングラスを傾ける。
「ミッドウェーと同じ轍を踏むのは嫌ですわ。モガミンと衝突するならベッドの中だけにしたいところですの」
「ホントだよ……って三隈、何言ってるのさ!?」
 むせる最上に、三隈が甘えるように寄りかかる。鈴谷が「アツアツだねえ。ひゅーひゅー」と口笛を吹き、「ふ、ふしだらですわ!」と熊野は顔を赤くする。
 そんな第七戦隊の輪に、敷波と白雪の入り込む余地はない。敷波は隅っこで料理をつつきながら、黙々とジュースを飲んでいるしかなかった。綾波や磯波がいれば、もうちょっとやりやすいんだけど。そう思いながら横の白雪を見ると、白雪はしれっとした顔でだし巻き卵を食べている。
 白雪も大概マイペースだなあ、と敷波はため息を噛み殺しつつ、別のテーブルに目を向ける。阿武隈と第十八駆逐隊の姿が見えた。霞と不知火が何か言い合っているようで、陽炎が「まあまあ」とそれを取りなしている。
「三隈はともかく、今日の鈴谷は素晴らしい動きの冴えでしたわ。大胆な直進での雷撃全回避、お見事でしてよ」
「まあ、当然の結果じゃん? でももっと褒めていーよ、ほら熊野ぉ、撫でてぇ」
「もう酔ってますわね……よしよし、鈴谷はすごいですわ」
「えへへぇ」