ハッシー


作品タイトル「戦人の翼たち」
登場艦娘:大鳳・瑞鶴
司令官名:小沢治三郎中将(海兵三七期 第三艦隊司令長官)


「小沢っち小沢っち! まだかな、まだかなっ?」
 胸に膨らむ期待感が、少女の声を弾ませる。声に気持ちに合わせるように、ツインテールがぴょこぴょこと揺れている。
「あの位置じゃあ、あと三〇分はくだらないだろうなぁ」
「ちぇーっ、じゃあまだまだじゃない」
 小沢っちと呼ばれた初老過ぎの男は、腕時計を見てそう返す。いじけた少女にフォローを入れてやる前に、別の声が彼女を咎めた。
「こら、瑞鶴。またそうやって……長官への言葉遣い、きちんとしなくては示しが……」
「えー、いいじゃない。ねぇ、小沢っち?」
 お咎めにもどこ吹く風と「小沢っち」を呼びながら、少女――翔鶴型航空母艦二番艦「瑞鶴」の艦娘――は笑う。
「構わんのだよ、翔鶴君。私にとっての君たちは歳の離れた娘か、あるいは孫みたいなものだ。あまりに軽薄なのはいかんが、あまりに固すぎるのもいかん」
「瑞鶴の口調は『あまりに軽薄』に聞こえる気がするのですが……」
「うむ、だが、この方が彼女らしいだろう。それに、二人を足して二で割ればちょうどよいじゃないか」
 やや呆れ顔の女性――同一番艦「翔鶴」の艦娘――に、「長官」はそう微笑んでみせた。
 男の名は、小沢治三郎。大日本帝国海軍中将にして、第一機動艦隊兼第三艦隊司令長官。瑞鶴、翔鶴の直属の上官たる彼に向け、翔鶴があれこれ綯い交ぜになった苦笑を向ける。
「そうかもしれませんが……それはそうと、長官も少し落ち着かれてください。私たちの『希望』、楽しみにされるお気持ちはよくわかりますけれど」
「何を言う。私は落ち着いているぞ?」
「到着予定時刻の一時間も前から待ち構えておいて、それこそ『何を言う』ですよ?」
「む……」
 クスクス笑いに返す言葉をなくす小沢。小さく唸った彼の横で、瑞鶴がはぁと溜息を洩らした。
「それにしても、おっきいなぁ……」
「大きさとしては君たちとそこまで変わらないはずだが……何故だか、大きく見えるな」
 小沢が呟き、翔鶴も頷く。視線を向けた先、彼らにとっての「希望」は、その巨体を着実に港へと近づけてきていた。